この記事は、転職エージェントのコンサルタントの次のような悩みや疑問を解決するのに役立つ記事になっています。
「同業他社は、コロナの影響をどう捉えているんだろう…?」
「IR情報みればいいのは分かっているんだけど、情報が多くて読み切れないんだよね…。」
日々の業務で忙しい皆さんに代わって、解説していきます。
分析対象としたIR情報
パーソルホールディングス社のIRライブラリにある、次の資料を分析対象としました。
- 2020年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)
- 2020年3月期 有価証券報告書
- 2020 年3 月期期末決算説明会(2020 年5 月15 日開催) 質疑応答 要旨
- 2020年3月期 連結決算補足情報
- 2020年3月期 決算説明会スライド
IR情報を横断的に徹底解説
ホールディングス全体としての業績
連結売上高は過去最高を更新。
2020年1~3月期(FY2019Q4)、売上高は過去最高を更新するものの、営業利益は前期を下回る結果となった。
セグメント構成
2020年3月※までのセグメント構成は下記の通り。
- 派遣・BPO
- リクルーティング
- PROGRAMMED
- PERSOLKELLY
- ITO
- エンジニアリング
- その他
※2020年4月以降は、SBU(Strategic Business Unit/戦略ビジネスユニット)体制へと移行しています。
各セグメントの内容解説と併せて、業績推移を見ていきます。
セグメント別業績推移
コロナの影響という点では、特に2020年1~3月期(第4四半期)の昨年対比が重要となってきます。
そこで”連結決算補足情報-セグメント別四半期データ”を見ていきます。
派遣・BPOセグメント
<派遣事業>
<BPO事業>
2020年1~3月期(FY2019Q4)売上高は対前年+7.2%の増収。
コロナの影響により、稼働時間減(△4.2%)となるものの、稼働日増+1.6%、事務領域を中心に稼働者数増+9.4%、単価+1.6%でカバーする形となっている。
現状のコロナの影響が稼働時間減から稼働者数に波及してくれば、セグメント業績悪化の懸念がありますね
リクルーティングセグメント
<求人広告事業>
<人材紹介事業>
▼有料職業紹介事業
▼再就職支援事業
2020年1~3月期(FY2019Q4)は「an」事業の撤退の影響や企業の採用抑制の影響を受け、減収減益に。
<求人広告事業>
新卒社員や「an」事業から異動した人員が売上に貢献し始めたことにより増収
<人材紹介事業>
景気鈍化の影響を受け、売上高は微減
セグメント全体への説明と個別事業への説明とを合わせると、つじつまがあわなくない?個別事業の業績推移を詳細に見ていく必要があるな。
PROGRAMMEDセグメント
オーストラリアを中心に、下記事業を展開。
<スタッフィング事業>
鉱業・製造業向けのスタッフ及び技術者等の派遣や紹介、トレーニングプログラム等の提供
<メンテナンス事業>
商業施設や学校等の施設管理や塗装・用地整備、鉱山施設等のメンテナンスサービス
オーストラリアドル安の影響により、△2.8%(現地通貨ベースでは、全体+6.4%、内スタッフィング事業+0.2%、メンテナンス事業+13.3%)
メンテナンス事業は、特にファシリティマネジメント事業が+17.5%成長と好調。
なるほど。有報をパッと見るだけだと、事業業績が悪いように見えるけど、為替の影響が強いってことだね。
PERSOLKELLYセグメント
アジア・パシフィック地域において、各国の法律に基づき人材派遣及び人材紹介サービス、業務委託、人事労務コンサルティング等の事業
景気の減速感が増すなかでも、派遣事業が堅調に推移。
- シンガポール : 売上高の約3割を占め、2桁成長を達成
- 中国 : 人材紹介事業が主力。貿易摩擦の影響を受け、低調
- オーストラリア : スタッフの稼働数が減少し、売上高は20%を超える減収
為替の影響と、事業詳細内容、及び各事業業績推移が見えにくいな…。
ITOセグメント
IT・エンジニアリング等の専門家・技術者集団として、技術革新を支える製造・開発受託請負や人材派遣事業
ITアウトソーシングへの需要は高く、増収増益。
前年同期比、前期比で成長率は鈍化している。
- 内需を中心とした大手クライアントや政府系のコンソーシアム案件等 : 引き合いは強い
- システム開発案件 : 不採算案件、企業からの伸び悩み
- ICTアウトソーシング事業 : 客先常駐スタッフを含め、コロナの影響は受けていない
- システムソリューション事業 : コロナの影響を一定受ける見込み
”コロナの影響を受けやすいか否か”については事業の選択と集中を行うシーンで、重要な判断基準となってきているね
エンジニアリングセグメント
主に、機械設計、電気・電子設計、開発等の専門的技術開発に携わる技術系人材領域に係る人材サービスに特化した事業
請負から派遣へと契約形態を柔軟に対応することで売上を確保。
全般的に製造業を中心とした新規案件が減少する中、既存クライアントや新規顧客開拓を踏まえ、主に派遣形態での案件数が増加。
また、当四半期には請負案件の検収が集中し、増収を確保。
”契約形態を柔軟に対応”とさらっと書いてあるけど、ここは大手ならではのノウハウだね。経験がなければそんな簡単なことではない。
その他セグメント
グループ全体に係る事業並びに教育研修事業、障がい者に関連する事業、ファシリティマネジメントに関する事業
新規事業“ミイダス”(人材マッチングサービス)等イノベーション事業が売上を伸ばす。
前年同期比171.1%増はすごい…。実は、私も数年前にミイダス使ったことあるけど、その時は『オファー案件が少なくて微妙だな』と思った。事業がスケールしていくと利用者数、利用者満足度も上がり、さらなるスケールも期待できるね。
コロナの影響
国内事業、海外事業ともに人材派遣事業では、在宅勤務や派遣先の休業による自宅待機、人材紹介事業では、企業の採用活動抑制による需要減が生じております。
「第12期有価証券報告書」より
世の中の派遣活用のフェーズが大きく変わったと考えています。現在は、派遣スタッフのうち、通常勤務は 45%、テレワークは 35%、自宅待機は 20%となっています。自宅待機者に対しては、企業様から休業補償をいただいています。しかし、6 月以降もこの状況が続くようであれば、大きな変化となる可能性があります。
「2020 年 3 月期期末決算説明会(2020 年 5 月 15 日開催) 質疑応答」より
新型コロナウィルス感染症の収束後は、国内において少子高齢化という構造の下、再び、中途採用の積極化、女性や高齢者、外国人等の活躍など、人材サービス業界の社会的役割、ビジネスチャンスは大きい
「第12期有価証券報告書」より
新型コロナウィルス感染症の影響により、リモートワークの急速な浸透に代表されるような変化は加速するものと考えております。
「第12期有価証券報告書」より
国内
国内事業につきましては、人材派遣事業では、マーケティング領域は店舗の営業時間短縮等の影響を受けておりますが、主力の事務領域では通常勤務に加え一部在宅勤務により稼働しております。人材紹介事業では、面談を対面式からオンラインに切り替えておりますが、企業の採用活動抑制の動きもあり、採用決定までまで時間の長期化や、採用見送りの影響を受けております。
「第12期有価証券報告書」より
海外
海外事業につきましては、各国の対応の違いにより、状況が大きく異なります。シンガポール、マレーシア、香港での人材派遣事業は在宅勤務が行われており、全般的に安定しております一方、中国は平常化に徐々に戻りつつありますが、主力の人材紹介事業は大幅な需要減が想定されます。豪州・ニュージーランドは、一部で外出制限の緩和はありますが、スタッフィング事業およびメンテナンス事業ともに影響を受ける見込みです。
「第12期有価証券報告書」より
今後の見通し
2021年3月期業績については、COVID-19感染拡大の程度や範囲、実体経済への影響や回復の時期等が現時点で合理的に想定できないため、通期予想および配当予想は未定とさせていただきます。また、準備策定しておりました2021年3月期を初年度とする3年間の中期経営計画も事業計画の見直しが必要となったため、発表は延期させていただきます。2021年3月期通期業績予想および配当予想、中期経営計画につきましては、2021年3月期第1四半期決算発表時に詳細を開示する予定です。
「2020年3月期 決算短信〔日本基準〕(連結)」より
業績予測は下記の通り。
キャリアアドバイザーの心構え
私のチームメンバーのキャリアアドバイザーにも、入社を控える求職者の方から次のような心配や不安の声をもらうことが多くなってきました。
「在宅勤務となった影響で、現職での引継ぎがうまくいかず、転職先への入社日に間に合うかどうか分からない。」
「そもそもコロナ禍の今、転職なんてしない方がいいんでしょうか…?」
コロナ禍において”仕事”そのものの概念自体が大きく揺らぎ、言い知れない不安を感じる状況となりました。
このタイミングで転職をする方々にとっては、変動要素の多い中で決断をしなければいけない辛さがあります。
こういった”正解”の見えにくい状況下において相談を受けるキャリアアドバイザーが改めて意識しなければいけないことは次の通りです。
- 求職者の価値観に焦点を当てる(キャリアアドバイザーの主観は排除する)
- 悩みの解像度を可能な限り上げる
- 外的要因と内的要因を仕分けする
- 悩みの対象が現実的に解決が可能か否かの確認をする
特に、1つ目の”求職者の価値観”がこのタイミングにおいては重要です。
コロナという”感染リスク”という性質上、求職者本人だけでなくご家族の価値観も影響が大きい状況があるからです。
用語解説
「有価証券報告書って初めて見るんですけど…。」
という方のため、用語も解説しておきます。
有価証券報告書とは
金融商品取引法で規定されている、事業年度ごとに作成する企業内容の外部への開示資料。
Wikipediaより
次のような株式会社には、各事業年度終了後、3か月以内の金融庁への提出が義務づけられている。
・金融商品取引所(証券取引所)に株式公開している会社
・店頭登録している株式の発行会社
・有価証券届出書提出会社
Wikipediaより
四半期報告書とは
事業年度を三か月毎(四半期)に区切って、前事業年度の有価証券報告書と比較して変動があった情報を開示する
Wikipediaより
決算短信とは
株式を証券取引所に上場している企業が、証券取引所の適時開示ルールに則り決算発表時に作成・提出する、共通形式の決算速報。
証券取引所の自主規制に基づく開示。
Wikipediaより
営業利益とは
売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いたもの。
販売組織や本社運営の効率性を含めた、企業の本業での収益力を表す指標。
事業利益。EBIT。
ウィキペディアより
EBITDAとは
税引前利益に、特別損益、支払利息、および減価償却費を加算した値。
損益計算書上に表示される会計上の利益ではない。
ウィキペディアより
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